全てはドーパミンのなせる業

メンタルの病気を考える時、一つの重要なキーワードがある。それは『ドーパミン』だ。様々な精神症状は脳内の神経伝達物質の異常から起こる。したがってメンタルの病気は『心の病』などではなく『脳の病気』と言わなければならない。なぜなら、本人がいくら心を正しく穏やかに保とうと頑張っても、その心の状態は脳内物質のバランスによって決められている訳であり、自分の脳みその中の事は本人の努力や根性でどうにかなる領域ではないからだ。しかし多くの人がこの仕組みを理解しておらず、メンタルの病気に関しては今まで様々な誤解と多くの不幸が起こってきた。

統合失調症にはドーパミン仮説というのがあり、これは今の精神科医療における薬物療法の基礎的な考え方になっている。早い話が統合失調症の患者はドーパミンが出過ぎているのだ。だからドーパミンの放出を抑える薬を飲む必要がある。一方うつ病はこのドーパミンが出なさ過ぎる事が原因で起こる病気だ。だが患者にとって重要なのはそういう薬理学的な事ではない。患者が起こす異常行動や耐えられないほどの苦しみの原因が、自分の脳みそのドーパミンによって左右されているという事実が重要なのだ。

ドーパミンが出過ぎると脳は過活動の状態になる。過活動の状態になると、人は現実を正しく認識できなくなり、独自の世界認識に基づいて生きるようになる。その悪影響は妄想・幻覚・幻聴だけではなく、ありえない購買行動や異常な性行動、極端な感情表現やとりとめのない思考など、ありとあらゆる精神症状として現れる。一方ドーパミンが出なさ過ぎると脳は極端に沈静化してしまう。この状態になると人は現実を直視できてしまうようになる。自分の世界認識からありとあらゆるフィルターがなくなる事で、今まで気づかなかった自分の人生や生きている社会の負の側面がリアルに感じ取れてしまう。こうなると本人は大きな負の現実を前に絶望し希死念慮を抱くようになる。このように統合失調症とうつ病という両極端な脳の状態を知る事で、人間の脳というのが如何に繊細にバランスをとって成り立っているのかを理解する事ができる。

ドーパミンの作用は自身の世界認識に直結しているので、出過ぎていてもいけないし出なさ過ぎてもいけないのだ。現実を見過ぎてもいけないし、見えなくなってしまうのもいけない。全てはバランスなのである。

*うつ病に関して、一般的なセロトニン原因説は適切ではないと感じる

 

発症の原因とメカニズム(仮説)

うつ病患者の発症エピソードでよく知られるものとして『過労』が挙げられる。過度な労働を行うと、脳は長時間に渡って過活動状態に置かれることになる。人は仕事の能率を上げる(脳を活性化させる)ために無意識にコーヒーを飲み、タバコを吸い、栄養ドリンクを飲み、そして限界がきたらお酒を飲む。そんな生活が続くと本人の現実認識に異常が生じてくる。忙し過ぎて自分でも何だか分からない状態になっているのだ。過労が原因でうつ病になってしまった人に対して、世間ではよく『そうなる前に仕事を辞めればよかったのに』といった意見を言う人がいるが、それは無理な話だ。それがまともに判断出来る状態ならば、そもそもうつ病になどならずに済んだのだから。

そしてここからが重要なのだが、過労を続けると脳はいずれかのタイミングで過活性を続ける脳からドーパミンの放出を制限し始める。全ては自らを守る為だ。だが忙し過ぎる日常の中では脳自身も正常な量が分からずそのままドーパミンをどんどん減らし続ける。そして限界まで減らし続けた結果、脳が極端に沈静化してしまい、それがうつ病という病態を作り上げる訳だ。これはほんの僅かな期間に起こる脳の変化で、一種のモードチェンジだと言える。

統合失調症の場合はこれとは逆のことが起こる。統合失調症における発病エピソードとして多いのが『過度のストレス』である。一言にストレスと言ってもこの場合に当てはまるストレスは『自身の世界認識に疑問を持たざるをえない様な嫌な経験』である。先ほど現実を直視できてしまうとまずいということを話したが、人というのはよく出来ていて、普通に暮らしてる分には自分がある程度嫌な経験をしても深く考えず受け流すように出来ている。だが不幸にも、どうしても受け流せない問題に直面することが、人にはある。その時に今までの自分が通用せず、何かに疑問が生じ、脳が自身の世界認識が根本から揺るがされるような危機的状況に陥ったと判断した時、脳はドーパミンを過剰生産し始め脳が過活動の状態に陥る。先ほどの話では脳が過活動の状態になると人は現実を正しく認識できなくなると書いたが、この場合自らを守る為の防衛機能として、正しく認識させない作用こそが脳の目的なのだ。脳は自分の認識機能そのものを変えることによって危機に対処しようとする。そしてその状態がずっと収まらず継続し続ける病気が統合失調症なのである。

 

メンタルの病気とは

結論を言うと、メンタルの病気というのは『脳の防衛機能が働いたまま元に戻らなくなる事』と言えるのではないだろうか。ドーパミンは人の脳の中でその人のバランスを保っている。そのバランスが一度崩れてしまうと、自身の力では容易に戻せない。だがここまで理解してもなお、メンタルの病気がどうしたら治るのか、服薬以外に何か有効なことはないのかといった疑問について、私はまだ答えを持っていないのだ。ただ、ドーパミンというキーワードを使って病気を見てみれば、今まで説明のつかなかった物事に一応の説明をつける事ができる。医師たちは当の患者にこの種の話はしないけれど、この考え方自体は多くの医師が共有しているはずだ。自分に処方されている薬に目を向けてみれば、主治医が今の自分(の脳)にどんな治療を試みているのかが分かるようになる。ドーパミンを増やそうとしているのか、減らそうとしているのかが判断できるようになれば、治療も良い成果を上げるに違いない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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