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そんな小さな冒険を何度も何度も繰り返したのが、私の2019年の夏だった。

私はこの夏、とにかくなるべく外に出ようと努めた。

統合失調症も回復期になってくるとただ家でじっとしているだけではそれ以上の回復を見込めなくなる。回復期になったなら、リハビリとして、積極的に外に出ていかなくてはならない。でなければ病状は足踏み状態で、ただ時間だけが無駄に過ぎていく事になってしまう。

だがこれがなかなか難しい。というのも、長い闘病生活の中で、自分の気分や意識はずっと内に籠った状態で暮らしてきた訳だ。その内に向いた意識を外に向けるという作業が、思いのほか難易度が高い事なのだ。

なので口実はなんでも良い。なんでもいいからとにかく外に出るように自分を仕向けなければいけない。だから私はその為に長い間イングレスやポケモンGOを外出の口実に使ってきた。

特にポケモンGOは、世間で爆発的に流行した事もあって、やっていてとてもやりがいがあったように思う。イングレスの時とは違い、他のプレイヤーと緩く接触する機会(ジムでのレイドバトルなど)もあったりして、そういった世間の人とのゆるいつながりが私にとってはとても貴重な体験だった。リハビリとして考えた時、こんな都合の良い代物は他にはそうはないだろうと思う。

伊藤園の自動販売機
伊藤園の自販機はポケストップになっている

私はポケストップやジムを回るのに自転車を多用している。自転車のハンドル部分にスマホホルダーを取り付けて、そのスマホの画面をナビ代わりにして街を巡るのだ。で、この夏、私はそんな自転車ライフをより充実させる為に、マウンテンバイクを買う事にした。買ったのはブリヂストンの数万円のやつだ。かなり奮発した。

そしてこの夏、私はポケモンGOとマウンテンバイクに乗るという事を口実にして、外に出まくった。

自転車専用レーン
自転車専用レーン

マウンテンバイクは私の行動範囲を大きく広げてくれた。日頃から地元のとても限定された空間で日常生活の全てが完結されていたような人間が、マウンテンバイクを手に入れた途端、土手を走ったり、隣の市に行ってみたり、丘を駆け上ったりするような、とても行動的な人間に突如として変わったのである。初めて来た丘の上のポケモンジムに自分のポケモンを配置して、満足しながら眼下に広がる街を眺める。そんな小さな冒険を何度も何度も繰り返したのが、私の2019年の夏だった。

味の素スタジアムの外壁
ここでラグビー・ワールドカップがおこなわれていた

マウンテンバイクを買ったのは正しかったと思う。手首のApple Watchは私がマウンテンバイクを買って以降、私の活動量が増えた事を継続的に記録し続けており、消費カロリーも、行動範囲も、アクティビティなども軒並みうなぎ上りになった。作戦は成功したのだ。私の、外出を主としたリハビリが成功した事を、Apple Watchも客観的数値として証明してくれている。

ひとつ分かった事は、リハビリには『物理的な事』をやった方が良いという事だ。資格の勉強とか、街へショッピングとか、そういう文化的で高等な事ではなくて、体を動かすとか、物理的に移動する、などといった『物理的な事』をとにかくやった方が良いように思われる。この夏、私は自転車で街を駆け巡ってみて、その事を学んだ。